親告罪
親告罪とは
親告罪とは、事実が公になることで、被害者のプライバシーが侵害されるなどの不利益が生じるおそれがある犯罪被害、および、介入に抑制的であるべきとされる親族間の問題など、被害者による告訴がなければ公訴を提起(起訴)することができないと定められた犯罪のことをいいます。
名誉毀損罪や侮辱罪、ストーカー規制法違反、信書開封罪・秘密漏示罪、過失傷害罪など、被害者のプライバシーが侵害されるなどの不利益が生じるおそれがある犯罪のことを絶対的親告罪といい、介入に抑制的であるべきとされる一定の親族間(配偶者・直系血族又は同居の親族)による窃盗罪・詐欺罪・横領罪などの犯罪のことを相対的親告罪といいます。
主要な親告罪の一覧
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告訴不可
配偶者、直系血族又は同居の親族による窃盗罪、詐欺罪・恐喝罪・横領罪などについては、刑が免除されるため、処罰されませんから、告訴することが出来ません。
告訴不要になったもの
従前、強姦などの性犯罪は「親告罪」とされ、告訴が無ければ処罰されませんでした。
平成29年7月13日より改正刑法が施行され、強制わいせつ罪、旧:強姦罪(刑法176条、177条)および準強制わいせつ罪、旧:準強姦罪(刑法1780条)は非親告罪となりました。
また、旧:強姦罪は被害者が女性のみで「男性器の女性器への一部挿入」の場合に限定されていましたが、新しく「強制性交等罪」に変更され、男性も被害者の対象となり、さらに肛門性交や口腔性交の場合にも適用されるようになりました。
「強姦致死傷」などの、プライバシーの保護よりも処罰すべき必要性が高いものについては、もとから非親告罪とされていました。
「痴漢」など、都道府県の条例違反に該当する事案についても非親告罪とされています。
名誉棄損・侮辱
刑法に定める「名誉棄損」の「名誉」とは「人や企業の客観的な社会的評価」のことであり、主観的な「名誉感情」を傷つけられたことは対象ではありません。 また、対象となるのは「具体的な事実を適示」した場合であり、主観的な「評価」や「感想」は、原則として名誉棄損にあたりません。
仮に社会的評価を低下させるものであっても、 (1)公共の利害に関する事実で、 (2)(恨み等ではなく)公益を図る目的で、 (3)その事実が真実である場合又は真実でなくても真実と信じたことに相当な理由がある場合 については、違法性が認められず、処罰をされません。
名誉毀損や信書開封・秘密漏示によって刑罰を受けるのは故意による場合のみです。
過失によって名誉を毀損されてしまったり信書開封・秘密漏示がなされてしまった場合には、民事上の損害賠償請求をすることは可能ですが、刑事処罰を求めることは出来ません。
告訴不可分の原則
告訴不可分の原則というものがあります。
一個の犯罪や共犯の1人に対する告訴や告訴の取り下げは、すべての犯罪や共犯に効力が及ぶとする原則です。
告訴不可分の原則には、「客観的不可分の原則」と「主観的不可分の原則」とがあります。
客観的不可分の原則
一個の犯罪事実の一部について、告訴又はその取消があったときは、その犯罪事実の全てに効力が及ぶとする原則です。 告訴・告発とは、犯罪事実を申告し犯人の処罰を求める意思表示であるため、全ての罪状を記載することが求められていないからです。 よって、複数の罪状がある場合でも、すべての罪状を記載しなくても、すべての犯罪事実に対して告訴・告発の効力が及ぶ、ということです。 例えば偽造私文書行使をして詐欺を行った場合、「偽造私文書行使罪」の告訴・告発の効力は「詐欺罪」にも及びますし、不法に住居侵入をして窃盗を行った場合であれば、「住居侵入罪」での告訴・告発の効力は「窃盗罪」にも及ぶということです。 逆にいえば、告訴人・告発人が特定の罪状での処罰を求めても、捜査当局は、その罪状に拘束されないという意味でもあります。
例外: 複数の犯罪が一罪を構成する犯罪において、非親告罪と親告罪が競合して存在する場合、非親告罪である犯罪についてのみ告訴がされた場合は、親告罪に対しては告訴の効力は及びません。
主観的不可分の原則
親告罪について、共犯者の1人又は数人に対して告訴又はその取消があった場合は、他の共犯者に対してもその効力が生ずる。という原則です。 告訴は、犯罪事実を申告して犯人の処罰を求めるものであって、誰が犯人であるかという個人の特定を求めるものでは無いという性質があるためです。 よって共犯者がいる場合でも、すべての共犯者に対する告訴をしなくても、すべての共犯者に対して告訴の効力が及ぶ、ということです。 もちろん、共犯者が誰なのかが判明している場合には、処罰の意志を明確にするために、告訴状に明記した方が望ましいとはいえます。 逆にいえば、告訴人・告発人が特定の犯人のみの処罰を求めても、捜査当局は、その指定に拘束されないという意味でもあります。
例外:
共犯者の一人が、親・兄弟姉妹などの親族だった場合、親族ではない犯人に対してした告訴の効力は、親族には及びません。
また、共犯者が親族でなく、被害者が、親族でない共犯者のみを告訴したときは、「主観的不可分の原則」の例外として、親族である犯人は処罰を受けません。
刑事訴訟法238条1項 |
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親告罪について共犯の1人又は数人に対してした告訴又はその取消は、他の共犯に対しても、その効力を生ずる。 |
親告罪の告訴期間
親告罪は、告訴期間が「犯人を知ってから6ヶ月」とされています(刑事訴訟法235条1項)。
ただし、以下の犯罪については公訴時効が完成するまでは、いつでも告訴することが出来ます。
- ・外国の君主・大統領又は外国の使節に対する名誉毀損罪・侮辱罪につき外国の代表者又は外国の使節が行う告訴
- ・略取または誘拐された後その犯人と婚姻した者の告訴の場合
(婚姻の無効または取消しの裁判が確定した日から6箇月以内)
刑事訴訟法235条 |
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親告罪の告訴は、犯人を知った日から6箇月を経過したときは、これをすることができない。ただし、刑法第232条第2項の規定により外国の代表者が行う告訴及び日本国に派遣された外国の使節に対する同法第230条又は第231条の罪につきその使節が行う告訴については、この限りでない。 |
告訴期間の計算
「犯人を知った日」とは、当該犯罪が終了した後の犯人を知った日であるとされています。
継続犯の場合、犯罪の継続中に犯人を知ったとしても、犯罪行為が終了した時点から告訴期間が進行することになります。
平成16年4月22日 大阪高等裁判所 判決要旨 |
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刑訴法235条1項にいう「犯人を知った日」とは、犯行終了後において、告訴権者が犯人が誰であるかを知った日をいい、犯罪の継続中に告訴権者が犯人を知ったとしても、その日をもって告訴期間の起算日とされることはない。 本件記事は、サーバコンピュータから削除されることなく、利用者の閲覧可能な状態に置かれたままであった。 よって、被害発生の抽象的危険が維持されていたといえるから、このような類型の名誉棄損罪においては、既遂に達した後も、未だ犯行は終了せず、継続している。 そして、被害者の本件告訴は、犯罪が終了した後6か月以内であることが明らかであるから、適法である。 |
なお、警察などの捜査機関は、告訴が無くても親告罪の捜査を行うことは可能です。
ただし、最終的に告訴がされなければ処罰することが出来なくなりますので、早めに告訴状を警察署に持参して相談するなどして告訴意思を明確に伝えておくことが重要です。
犯罪捜査規範70条 |
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『警察官は、親告罪に係る犯罪があることを知つた場合において、直ちにその捜査を行わなければ証拠の収集その他事後における捜査が著しく困難となるおそれがあると認めるときは、いまだ告訴がない場合においても、捜査しなければならない。この場合においては、被害者またはその家族の名誉、信用等を傷つけることのないよう、特に注意しなければならない。』 そして、被害者の本件告訴は、犯罪が終了した後6か月以内であることが明らかであるから、適法である。 |
犯罪捜査規範121条旨 |
『逮捕状を請求するに当たって、当該事件が親告罪に係るものであって、いまだ告訴がないときは、告訴権者に対して告訴するかどうかを確かめなければならない』 そして、被害者の本件告訴は、犯罪が終了した後6か月以内であることが明らかであるから、適法である。 |
告訴期間の計算については、刑事訴訟法第55条によって定められています。
犯罪が終了した後の犯人を知った日は参入せず、その翌日から起算します。
年数と月数は暦によって計算します。
期間の末日が土曜・日曜・祝日などの休日に当たる場合は、その翌日が末日とみなされます。
※親族間相盗例によって刑罰が免除される事案や告訴期間経過によって刑事告訴が出来ない事案であっても、民事上の損害賠償請求を行うことは可能です。